いつの世も、世間に噂される情報というものがあります。特に、事実か事実でないかハッキリしない噂に関しては、『都市伝説』『~らしい噂』というように言われます。

転職についての噂というと、業界、職種、年齢、性別、学歴、・・・という風に色々と耳にします。その中で今回取り上げるのは、『年齢』に関しての噂について、私的な目線も含めて書かせて頂きます。

※当ブログでは、最終的には『ものづくり技術者』に関する転職、を基準としています。

転職するのは、35歳が限界!?

いつどこで最初に聞いたか覚えていませんが、『転職35歳限界説』というのを聞いたことがあります。そして、今でも度々耳にします。改めて『何なんだこれは!?』と思って調べてみました。

誰が言い始めたのか?

こういう話って、そもそも誰が言い始めたのかって気になりますよね?色々調べてみましたが、判明は出来ませんでした。マスコミで取り上げられたのか。人材業界で言われ始めたのか。ハッキリしないから『噂』と捉えられるのでしょうけれど。それでも、長く語り継がれているというのは凄い事ですね。

どういう意味で使われているのか?

『35歳限界説』というだけで、だいたい想像はつきますが、一応調べてみました。あちこちに情報が氾濫していました(それだけ有名なフレーズということでしょう)が、一番簡潔にまとめていたのが、『35歳を機に転職の成功率が下がる』という内容で、これを『転職業界の【定説】』とまで言い切っていました。【定説】=(定まった説。疑いのない証明済みの確定的であるとされる説。)と言ってしまうとは凄い事ですね。そこまで言い切られると、疑いたくなってしまうのは私の性格でしょうか。

『35歳限界説』は健在?崩壊した?

もう少し調べてみると、この『転職35歳限界説』の現在に関しての意見があり、二通りに割れているようでした。それは、『35歳限界説はいまだに健在』とする意見と、『35歳限界説は崩壊した』という意見です。

『35歳限界説は崩壊した』という意見について

理論的には、35歳以上を対象とした求人が増えている、という事が示されれば根拠となるでしょう。では、実際はどうなのか?厚生労働省東京労働局が発表している、年齢別有効求人倍率の推移に関して調べ、2004年1月(東京労働局HP一番古いデータ)と、2018年9月(東京労働局HP一番新しいデータ)で比較してみると、35~44歳(1.11⇒1.24)、45~54歳(0.52⇒0.98)、55歳以上(0.29⇒1.19)、という風に、軒並み増えています。もちろん、途中が全て右肩上がりではありませんが、14年間で有効求人倍率という指標では、確実に増えていると言えるでしょう。しかも、年齢層が上の方が上昇率が高いのが分かります。この理論に基づけば、『35歳限界説は崩壊した』という意見には数値的裏付けもあり、今後の更なる上昇も予想させる内容でしょう。

『35歳限界説はいまだに健在』という意見について

『35歳限界説は崩壊した』という意見を受けた上で、それを否定しようという意見があります。それが、『35歳限界説はいまだに健在』という意見です。前項の通り、数値的に分析して、35歳以上を対象とした有効求人倍率が上がっている事が確認されました。それなのに何故『35歳限界説はいまだに健在』と言えるのでしょうか。その理論はこうです。35歳以下の有効求人倍率は?同様に2004年1月(東京労働局HP一番古いデータ)と、2018年9月(東京労働局HP一番新しいデータ)で比較してみると、2004年1月(24歳以下0.91、25~34歳0.58)⇒2018年9月(34歳以下1.9)≪年齢層記載方法の変更あり≫でした。こう見てみるとどうでしょうか。34歳以下の有効求人倍率の上がり方は、それ以上の年齢層と比べてかなり大きいですよね。もちろん、どの年度の数字で比較するかで多少の違いは出てくると思います。しかし、読み取れる事としては、『34歳以下の方が有効求人倍率の上がり幅が大きいのではないか』という事と、『全体的に有効求人倍率が上がっている』という事です。この2つの要素から、結局は『35歳限界説はいまだに健在』だろう、という理論に落ち着くようです。

私的な意見について

前2項の内容を、調べて、分析し、踏まえた上で、思う事が幾つかあります。

【限界説】という言葉の強さ

【限界】と言われたら、『もう無理』『転職出来ない』と思ってしまいます。もし33歳位の人が『転職35歳限界説』と言われたら、『これが人生最後のチャンス』『転職するなら急がなくては』と思うでしょう。しかし、そんなに転職に焦らせるような【定説】があって良いのでしょうか。経営者の方から見れば、『35歳前に社員が辞め始めるから気を付けなければ』と、恐れる言葉ではないでしょうか。

転職は焦らせて行うべき事なのか

もし焦らせる事が目的であると仮定した場合を考えてみます。本来は、世の中で正確な情報が平等に共有されるべきですが、極端な情報や、過激な情報には気を付けなければなりません。転職は理由があって行うものです。人に焦らされて行うべきものではないのではないか?と感じます。元々転職を考えなかった人が、35歳前に転職しなければいけないのではないか?と勘違いしてしまう事だってあり得ます。

実際のデータをどう分析するか

有効求人倍率の数字を見て、どう分析するかで、考え方も変わってくると思います。『35歳限界説は崩壊した』の理論では、35歳以上の有効求人倍率が上がっている事に注目していました。『35歳限界説はいまだに健在』の理論では、比較論で34歳以下の方が有効求人倍率が上がっている事と、全体的に上がっているので35歳以上が特に上がった訳ではない、という分析の仕方をしていました。でもこれって、同じデータを見て言っている事なんですよね。ミクロに見るか、マクロに見るかの違いだけで大きく変わってきますよね。

現実的にはどうか

『○○歳限界説』というのを提言する時に、【35歳】という年齢に注目した事には理由があると思いますので、私的に考察してみました。20前後で学校を卒業し、社会に出て働き始める人が多い日本の世の中で、社会人になって10年を超えてくる頃、30~35歳というのは会社内でも一通りの経験を終えて【中堅】と呼ばれ始めたり、役職が付き始めて【主任】【係長】【課長】等という肩書が付き始める頃です。社内、つまり会社側から見ると、下積み時代が終わってこれから本格的に活躍して欲しい時期です。社外、つまり中途採用をする場合には、下積みを終えている『即戦力』を求めるようになる頃です。しかし、転職先で即戦力を求められる事って、冷静に考えると、もの凄いプレッシャーですよね。その状況下で転職を考える際、中途採用をする側から見た時に、選考基準で何を求めるか、という事を想像してみると、ハードルがかなり上がってくると思います。何故ならば『即戦力』という認識なのですから。

即戦力とは?

採用の世界では、簡単に『即戦力』という単語を使います。では、それはどういう意味、どういう使い方なのでしょうか?もし、日本語のそのままの意味で捉えたならば、『入社した瞬間から戦力となる』という解釈になるでしょう。しかし、実際にそんな人はいるのでしょうか?もしいたとしたならば、過去にその会社に所属していた人か、その会社の仕事を外部から一緒になってしていた人だけではないでしょうか?

そう考えると、実際に使っている『即戦力』という単語には解釈が必要になります。私の経験上、それは『短期間で既存社員と同じレベルの仕事が出来るようになる』という事だと考えられます。ここで『短期とは何ヵ月?』と疑問に思う方もいるでしょうが、それは完全にその企業のスピード感によります。2週間という企業もあるでしょうし、1年という企業もあるでしょう。『as soon as possible』=『なる早』です。

年代別、中途採用のポイント

ここで、中途採用に関して、世代別に求められるポイントを改めて考えてみます。これはあくまでも一般論ですが、年齢別で中途採用時に求められるポイントをある程度分けて考える事が出来ると思います。

20歳代前半の中途採用

20歳代前半の中途採用というのは、所謂第二新卒~若手採用となります。ここで求められるのは、『ポテンシャル』です。では、『ポテンシャル』とは何か?それは一言で言えば、(経験のあるなしに限らず)出来そうかどうか』と考えられます。ここで思い出して頂きたいのが、『新卒採用』です。『新卒採用』の大半は『未経験者採用』です。研究室で同様の研究をしてきた、企業との共同開発に携わってきた、インターンで経験していた、というような内容で『経験者』と言えなくはない人はいますし、中には『在学中も本格的に働いていた』という人もいます。しかし、殆どの学生は『業務未経験』のまま就職活動を行います。採用する企業もこれを基に選考を行います。この時の基準も、究極的に一言で言ってしまえば(経験のあるなしに限らず)出来そうかどうか』であると考えられます。つまり、20歳代前半の中途採用は、新卒採用の延長戦上であると考えられます。

20歳代後半の中途採用

少し世代を上げて考えてみます。20歳代後半になるとどう変わるのでしょうか?一般的には、多少の実務経験が問われる傾向が増えます。よくあるパターンが、『実務経験3年以上』という求人条件です。しかし、まだまだ『業界経験不問』という条件が多いのがこの世代の特徴ではないでしょうか。

30歳代前半の中途採用

更に世代が上がってきました。ここで前の世代によく加わる求人フレーズが、『但し、マネジメント経験不問』です。実務経験としては、『即戦力希望』が増えてきますが、まだ『マネジメント経験』は問わないという事です。

30歳代後半の中途採用

いよいよ、今回の本題、『35歳限界説』の境界線です。ここから加わるフレーズは(前項から予想は簡単ですが)『マネジメント経験希望』です。つまり、実務経験は『即戦力』、マネジメントは『経験者希望』という訳です。

マネジメント経験を希望するのは何故か?

それでは、何故、30歳代後半の中途採用の辺りから、マネジメント経験を求め始めるのか?それは恐らく、『その企業で新卒からずっと働いている人達がそうだから』ではないでしょうか。

終身雇用という考え方

日本の企業の大半は、今でも終身雇用という考えた方を基準に、人事制度や採用活動を考えています。つまり、学校を卒業して就職し、成長と昇格を繰り返していき、定年を迎える。転職をするのは、自分自身が上手くいかないか、会社が上手くいかない(リストラ、倒産など)か、上昇志向の強い人(所謂ジョブホッパー)か、という人達だろう、という考え方です。つまり、新卒入社⇒定年退職が標準であり、入社するからには中途採用者に関してもこれに合わせてもらう、という考え方になるのではないでしょうか。

マネジメント経験とは?

『マネジメント』という言葉は大そうなインパクトを与えます。今すぐ面接に行ったとして、自信を持って『マネジメント経験で即戦力になります!』と言える人がどれほどいるのでしょうか?しかし、ビックプロジェクトで100人を束ねるのも『マネジメント』ですし、後輩を1人教育するのも『マネジメント』と表現される場合もあります。つまり、『在籍年数相当の【他人の面倒】を見てきた経験』と解釈できるのではないでしょうか。

まとめ

今回のテーマは、『転職35歳限界説は本当か!?』でした。今までの分析と、私の解釈を加えると、『ちょっと違うのでは?』と考えています。何故ならば、35歳を超えても多くの人が転職しています。求人もあります。でも、『転職35歳限界説』をどなたかが言い出した気持ちはよく分かります。そこで新たな提案をしてみたいと思います。

『求人数35歳以降減少説』

『転職35歳限界説』は強烈な表現すぎます。そして、36歳以上、定年後だって転職している人がいます。それであれば、【限界】というフレーズは相応しくないと考えました。しかし、データ上で分析していけば、世代別に見た場合35歳以上の求人数は減っていきます。理屈で考えても、新卒から始まる若手の求人ニーズに対して、中堅以上の求人ニーズが少ない事は当然と言えるでしょう。ですから、現実的な問題として、『求人数35歳以降減少説』を提唱したてみたいと思います。

『35歳【キャリアチェンジ】限界説』

年代別に中途採用者に求めるポイントを書いた内容を総合した場合に、『即戦力』『マネジメント経験』に関する内容が大きな分かれ目になっていたと思います。つまり、新しい事にチャレンジ出来る可能性というのは、年齢を重ねるごとに増えていく傾向にあるという事は分析できます。ものづくり業界では(IT業界ではもう少し年齢に対する感覚が若くなるようです)、この境目が【30~35歳位】にあると考えられます。ですから、【キャリアチェンジ】の限界が35歳頃にくるというのは、一般論では納得性のあるものだと思います。故に、『35歳【キャリアチェンジ】限界説』を提唱してみたいと思います。

未来の雇用問題を考えてみる

今までの話は、あくまでも過去から現在にかけてのお話です。では、100年後の日本はどうなっているのでしょうか?誰にも答えは語れません。しかし、現在と変わっているという事は間違いないでしょう。『人生100年時代』と言われていますが、人々の寿命が延び、健康年齢も延びています。しかし、経済的余裕はそれほど伸びているとは思えません。今は『定年が60歳から上がっているらしい』というレベルの話ですが、これはどんどん上がっていくかもしれません。そうなれば、正社員雇用とか、転職とか、今ある雇用に関する常識は変わっていくと思います。そう考えたら、『転職35歳限界説』【定説】といまだに言っている事自体が笑い話だと思いませんか!?私としては、この『転職35歳限界説』というテーマから、日本の雇用に関する時代遅れ感を感じて頂き、未来へ向けて変えていくべき事を考えて頂くきっかけに少しでもなれば、嬉しい限りです。