転職活動を行う上で、苦手な事は人それぞれあると思います。我々キャリアコンサルタントも、転職支援の場では、色々なご相談を受けて、色々なアドバイスをします。今回は、その中でも特にご相談が多いと感じるテーマについて取り上げます。

【自己PR】が苦手な方が多いようです。

年代を問わず、もしかしたら日本人全般に共通するのかもしれないと感じるほどに、『【自己PR】が苦手』というご相談を受けますし、実際に面接や書類作成の段階でも、『【自己PR】が上手く出来なかった』というご報告を受けます。

苦手な上司と鉢合わせして顔をそらす女性社員

何故、【自己PR】が苦手なのか?

皆さんは、就職活動や転職活動以外の場面で、どれくらい【自己PR】をする機会がありますでしょうか。私自身、過去を振り返ってみると、それはあまり無かったような気がします。そこで、過去から振り返ってみる事にしました。

親に対して、自身の頑張りをPRする事があったような・・・

幼少期から中学生くらいの頃を思い出した時に、思い浮かんだのが、親に対しての【自己PR】でした。学校でのテストの結果、体育の授業や運動会などでの運動に関する成果、図画工作などでものづくりをした時の作製物、先生に褒められた時、こういうような場面で親に対して【自己PR】をしていた事があったかもしれません。それはきっと、親に褒められたい、認められたい、という承認欲求からだと思います。しかし、それでも、『【自己PR】をしていた事があったかもしれません』という程度で、明確に強く【自己PR】をしていた自覚はありません。

学校の先生に対して、自身をPRする事があったような・・・

更に、学校での生活を思い出してみました。もう少し明確に、【自己PR】に関しての記憶が出てきました。皆さんも同じような記憶があるのではないかと思いますが、クラスに必ず1人か2人、先生に対して強く【自己PR】をしていたクラスメイトがいました。それは、勉強に関してであったり、クラス活動、掃除、面倒見の良さ、褒められるような事をした、等々何かと前に出ていき目立つような行動を伴っている人でした。それはきっと、『先生に褒められたい、認められたい』という意識や、『他のクラスメイトよりも良い立場になりたい』という意識もあったのではないでしょうか。

ここで気づく事は、『クラスに必ず1人か2人いました』という事です。大体、小中学校の1クラスの人数は、30~40人でしたので、その7%以下という事になります。

職場で、自身をPRする人はいました

これが社会に出て、就職して企業で仕事をするようになると、自身が周りから評価される必要性を感じる、という要素が加わってきます。学校の時は、テストの点が良くて、生活態度が良ければ、黙っていても通知書で評価されていたでしょうが、会社ではそこまで明確に差が出るような結果は現れません。その為、上司や先輩、時には同僚や後輩にも、自身の仕事ぶりや努力、成果に関して【自己PR】をしないと認められなかったり、出世が出来なかったり、という場面があります。ですので、会社組織で出世している人の何割かは、【自己PR】が上手だと感じる事があります。

ここで分かるのは、企業組織の中で【自己PR】を積極的にしているのは、一部であり、そのうち【自己PR】を上手く出来ているのは、順調に出世している人(社員の半分以下では?)のうちの何割か、という事で、やはり社員数全体の少数派と言えるでしょう。

日本人は【自己PR】が苦手!?

こう見てくると、典型的な日本人として生きてきた私から見て、自分自身が【自己PR】を積極的にしてきた記憶はあまりないですし、他人が【自己PR】をしていて更にそれが上手く結果に繋がった人は、ごく一部の人ではないかと思います。そう考えると、生まれてから【自己PR】というものを殆ど経験せずに20年近く生きてきて、『就職活動で必要だから』と、急に【自己PR】をしてください、と言われた時に、苦手意識があり、上手く出来ないというのは、当たり前のことではないか?と私自身は感じています。

日本人以外は違うのか!?

私自身は、海外で生活したりビジネスをしたことがありません。ですので間接的な情報が殆どになってしまいますが、マスコミュニケーションの情報、実際にお会いする帰国子女等の海外生活経験者、日本で一緒に仕事をした外国籍の方、等からの話や実体験を総合すると、欧米諸国の特にビジネス色の強い地域、アジアの先進諸国、においては特に、【自己PR】【自己主張】が圧倒的に強いと感じます。特に、帰国子女の方の経験談を聞くと、『学生時代から自己主張をしっかりとしないと話も聞いてもらえない』とか、『言わないのは考えていない、何もしないのと同じ』とか、【自己PR】【自己主張】を重視したコミュニケーションが基準になっているようです。

就職・転職活動の場面で【自己PR】が苦手で困ること

日本人の多くは、【自己PR】【自己主張】が苦手であろうという確信に近い予想を基に、実際に就職・転職活動の場面で困っている実例を幾つかご紹介します。

就職活動準備中の学生の場合

つい最近の話です。大学3年生で就職活動の準備を始めたという方から話を聞いてみると、毎日エントリーシートを書きながら悩んでいる、と話してくれました。アルバイトをする時に、履歴書を書いた事はあるでしょうが、就職活動のエントリーシートとなると、項目も求められるものもだいぶ変わってきます。項目は増え、単純に文字数も増え、内容も考えなければいけなくなり、その上『エントリーシートの内容で書類選考結果が変わってしまう』となれば、必死になって考えるでしょう。その中で、筆が止まり、特に苦戦しているのが、【自己PR】欄であると教えてくれました。大学3年生の正直の気持ちは、『今までこんな事考えた事もないし、書いた事に対して相手がどう感じるかとか、何を書いたら評価してもらえるかなんて、全然分からない。』というものでした。更に、『【自己PR】欄は1,000文字なので、800文字以上は埋めないといけないと思う』という風に、沢山書かなければいけない事にも悩んでいました。

この気持ち、凄くよく分かります。自分自身の学生時代を思い出しました。私の場合、面接マニュアル本も読んだ気がしますし、周りからのアドバイスも受けた気がします。そして、自身で書き上げたエントリーシートの【自己PR】欄を読んで、『気持ち悪い…』という恥ずかしさと違和感を覚えたものでした。

初めての転職活動を始めた若手技術者の場合

企業へ、履歴書と職務経歴書を提出し、書類選考を通過し、面接を受ける事が出来ました。しかし、残念ながら面接で不合格。志望度の高い企業であった為、ご本人の落胆ぶりも明らかでした。面接での質疑応答を主としたやり取りを振り返っていった際に、ご本人が一番上手くいかなかったというのが、やはり【自己PR】でした。その内容を聞いた私としても、『悪い内容ではないけど、【自己PR】にはなってないかな…』というような内容でした。かと言って、今同じ質問をされても上手く答えられる自信が無い、というのが【自己PR】苦手問題の厄介なところでもあります。

技術職から営業職へのキャリアチェンジ転職の場合

転職の醍醐味の1つは、新しい何かへのチャレンジです。その中でも、キャリアチェンジというのは、ハードルは高いものの希望する方は少なくありません。また、昨今は技術職の経験を活かして、技術営業や技術企業での営業職にチャレンジする事は、技術企業からも求められることが多くなっています。しかし、技術職をしている方で、営業職への適性が高い人は、正直多くないと感じます。それは単純に、仕事の仕方・考え方・その他諸々、根本的に違う部分が多いからです。世の中で、『営業に向いているね』と言われる人には、『良く喋る人』『話が上手い人』が多いです。それくらい、『営業職=喋る仕事』というイメージが一般的であるという事です。

面接の場面では、当然、コミュニケーション能力が試されます。もちろん、単純に『喋れる』というだけではなく、説明能力、分析力、会話力、気遣い、言葉遣い、などあらゆる角度から試されます。その中で当然【自己PR】に関しても重視されています。しかし、今回の事例のキャリアチェンジを希望する方もやはり『【自己PR】は苦手です』と言っていました。その為、面接対策の中でも【自己PR】が一番の課題なので、アドバイスして欲しい、との相談でした。

ベテラン技術者のプレイングマネージャーへ転職希望者の場合

技術力も非常に高く、コミュニケーション能力も高く、組織が組織ならばマネジメントを求められるであろうという方です。現職では不動のマネジメント者がいるのと、組織規模的にもう1人は必要とされないようでした。転職支援の立場から見て、『特に面接に不安は感じない』という方で、説明力、理解力、会話力、その他含めてどんな面接をされても問題ないだろうと感じさせてくれる方でした。しかし、ご本人は【自己PR】が苦手と言うので、試しに模擬面接で【自己PR】をして頂くと、とても上手く良い事を言っているのですが、【自己PR】としては弱いというか、【自己PR】になっていないと言われてもおかしくないというか、ご本人の苦手意識に納得する結果となりました。

苦手な【自己PR】をどう乗り越えれば良いのか

今までの分析、事例を通じて、【自己PR】が苦手な方が多いのが事実と言えるだろう事が分かって頂けたと思います。しかし、それを説明したところで、【自己PR】が急に出来るようになる訳ではないですし、面接や選考書類から【自己PR】という項目が無くなる訳ではありませんし、面接官が選考を甘くしてくれる訳ではありません。就職・転職の選考を受ける上で、ほぼ必ず求められる項目であれば、しっかりと準備しておくしかありません。

【自己PR】力を磨く!!

苦手を克服するには、幾つかの方法論が考えられます。どの方法が合うかはその人次第でしょうから、色々と試してみるのが良いと思います。

得意な人から真似る!

スポーツでも仕事でも、上達への近道は真似る事です。今までの分析の中で、『日本人は【自己PR】が苦手』という内容がありました。それであれば、【自己PR】が得意な国の方などから学んでみてはいかがでしょうか。『なるほど、こういう風に【自己PR】をするのか!』『この【自己PR】の仕方は自分でも出来そうだ』と感じる方法があるはずです。今はインターネットでいくらでも情報が集められますし、国籍に関わらず近くに【自己PR】が得意な人もいるでしょう。

【自己PR】を学ぶ

【自己PR】は何をすれば良いのだろう、というところから始まる人もいます。まずは【自己PR】というものを理解する必要があります。何をどうしたら【自己PR】になるのかと考えてみなければいけません。最低限、まずは自分自身の強みを理解しなければいけないでしょう。そして、その強みをアピールする方法を考えます。仕事の実績でアピールする方法もあるでしょうし、取り組み、志向性、人間性、技術力、知識、等々アピール出来る要素は沢山あります。また、それらの要素を、相対的にアピールするのか、絶対的にアピールするのか、という選択肢もあります。このように、理論的に考える事で【自己PR】を構成していく事も可能です。

工夫した【自己PR】を考えてみる

それでも上手く出来ないという人もいるでしょう。そういう場合は、視点を変えたり、工夫してみる事が必要です。

客観的に【自己PR】を考えてみる

視点を変えてみることで上手くいかないかと考えてみました。昔どこかで、自己紹介の代わりに、他人を紹介する『他己紹介』というのをした事があります。自分の事よりも、他人の事の方が上手く話せるという場面がありました。この応用で、他人をアピールする【他己PR】という考え方はどうでしょうか?自分自身を客観的に捉えて、第三者目線で自分自身をアピールしてみてください。『自分をアピールしなきゃ…』と悩んでプレッシャーを感じている人にとって、少し気が楽になる方法ではないかと考えられます。

他人にアピールしてもらう

自分自身を客観的に見る事も出来ない、となってしまった場合には、周りの人に自分の強みを聞いてみましょう。他人任せと思われてしまうかもしれませんが、他人の意見を聞くことも大事ですし、周りの協力を得るという行動も大事です。それに、そんな事を言っている場合ではないでしょうし…。但し、誰に相談するかという選択は大事です。的確な意見を言ってくれそうな人、自身の強みを知ってくれている人を選ばなければいけません。上手い意見を言ってもらえれば、純粋に自分自身に自信が持てて、日々の仕事のモチベーションも上がるかもしれません。

まとめ

今回のテーマである、『【自己PR】が苦手な人が多い』という経験からの印象は、事実と言って良いだろうと分析出来ました。そして、その要因は日本人の素性から始まり、日々の生活により深まっていっていると思われる事も確認出来ました。苦手な事を敢えてしなければいけないのは簡単な事ではありませんが、転職においてはその苦手な事が幾つも必要になります。それを乗り越えてこそ、転職の希望を叶えられると言っても過言ではないでしょう。苦手な事にどんどんチャレンジしてください。その壁を乗り越えた時に、自身の成長と共に得られるものが、新しいキャリアでも活かされるでしょうから。