ものづくり技術者の転職市場でも、外国籍の方はどんどん増えています。弊社でも、外国籍の方からの転職相談が年々増えています。ご支援する中で、日本人とは違うところで気になる事がありますが、今回は『日本語力』に関して感じた事を、実例を交えて書かせて頂きます。(あくまでも、実際に接した方々のデータを基に書かせて頂きますので、偏った内容かもしれない旨、ご承知おきくださいませ)

出身地域別に考えてみる

一言に外国籍の方と言っても、世界は広いですから、ある程度の地域別に考えてみました。勿論、実際にご相談を受けた方々に絞りました。

中国出身の場合

経験上、一番多いのが中国出身の方々です。私自身、以前在籍していた会社でも中国籍の方は多くいらっしゃいました。日本への距離も近いですし、関係性も深く、行き来しやすい関係性だと思います。中国出身の方の一番の特徴は、『漢字』を使っているという事です。その為、文字での日本語習得が一番早いのは、中国出身の方々だと感じます。また、中国出身の方々同士のネットワークがありますから、実際のコミュニケーション力が高い方も多いです。日本語の勉強にも慣れているのではないでしょうか。

東〜東南アジア地域

次に直接ご相談にいらっしゃったのが多いのが、東〜東南アジア地域です。文化的にも日本に馴染みやすいと感じる方が多く、求人企業でも在籍者が多い地域と言えます。日本語力に関しては非常にバラツキが大きいと感じます。しっかり勉強された方と日本在住歴が長い方は勿論日本語がお上手ですが、日本在籍歴が短い方の転職相談が多く、そういう方々は日本語での会話が苦手な方が多かったです。その分、学習意欲が高いので、お仕事をしながらどんどん日本語力が上がっていくのだろうと感じます。

インド地域

ここ数年、特に増えたなぁと感じるのが、インド地域の方々です。特に数学系に強いというのは有名な話ですが、実際にソフトウェア開発者や、シミュレーション、解析、機械設計等でも、転職相談者が増えています。転職相談をしていて感じるのは、技術力・専門知識の高さと、年収面でも高い方が多いです。それだけ、上流の仕事をされている方が多いのではないかと思います。日本語力に関しては、苦手な方が多い印象でした。理由としては、日本でも英語で仕事をしている方が多いからでした。その為、日本語ではコミュニケーションが難しくても活躍されていて、面接も英語で受けた方もいらっしゃいました。しかし、ここ最近ご相談にいらっしゃった方は日本語が非常にお上手なが増えていました。以前の方々と比較すると、日本在住歴が長い事、日本語での対外的な業務を経験されている事で、発音も非常に綺麗な方が数名続きました。

欧米地域

ものづくり技術者の転職相談としては、意外な程に少ないのがこの地域です。英語圏という事もあり、日本語力にバラツキがあると思っていましたが、実際に接した方々は、ほぼ日本で大学や大学院を卒業されていて、日本語力も非常に高い方が多かったのが事実です。

転職時に求められる日本語力に関して

では、転職時に求められる日本語レベルはどういうものなのでしょうか?

日本ものづくり企業の目線

求人企業がぼぼ必ず言うのが、『コミュニケーションミスが起こらないレベル』という言い方です。日常会話として意思疎通が出来ていても、ものづくりにおいては伝達ミスによる影響が一番避けなければいけない点です。例えば、設計者同士のコミュニケーションで、仕様に関してズレが生じてしまい、設計が違ってしまったら大問題です。これは設計者だけでなく、製造、品質、購買、生産技術等、全ての工程において、日本のものづくりクオリティに影響する要素です。ですので、選考、面接では、会話や文字による伝達ミスが起こらないかどうか、細かくチャックされる事が多いです。

外資系企業の目線

日本語力の話をすると、よく『外資系だったら英語話せれば大丈夫でしょう』という方もいらっしゃいます。ですが、実際にはそういう企業は非常に少ないです。例えば、社内だけで業務が完了する職種であれば、英語や母国語だけでも大丈夫という事例もありますが、殆どは対外的なコミュニケーションも必要になり、外資系と言えども日本国内で働いている訳ですから、日本語は必須となります。但し、英語や母国が使える事はプラス評価をしてくれる場合が多いですから、そういう意味では評価されやすくなるとも言えるかもしれませんね。

日本語能力試験に関して

それでは、結局どれくらい日本語が使えれば良いのか、という事を聞かれますが、1つの基準として、日本語能力試験N1以上、という条件を明示する企業が増えているのは事実です。私の経験上、あくまでも試験での評価ですから、N1合格者であっても実際に喋った時の日本語力はピンキリですし、試験を受けていなくてもお上手な方も多くいらっしゃいます。しかし、転職時の選考を意識すると、N1 合格は目指した方が良いと思います。

最近の事例を幾つか

日本語力が高くて問題ない方の事例よりも、日本語に苦戦されている方の事例の方がご参考になるかと思いますので、そちらにフォーカスしてみます。

話す・聞く・書く、全て苦手な方

日本にいらっしゃって2年程の、東南アジア出身者でした。最初のメールのやり取りから、日本語が苦手だろうと感じる内容でした。実際にお話ししても、お話しした内容が聞き取れていない、理解できていないのを感じました。また、ご本人も言いたい事を上手く表現出来ていませんでした。お話をじっくりしていくと、日本語を専門的に勉強された事がないとの事で、単語・文法を理解出来ていないようでした。収入面の問題で転職を焦っていたのですが、キャリアに関してしっかりと考える事と、日本語力を上げる為に基礎から勉強する事をオススメしました。まだお若い方でしたし、1年くらい集中して勉強されれば、一気に上達しそうと感じましたので、今後の期待値が高い方です。

読み書きが苦手な方

インド出身で、日本在住歴も10年近い方でした。メールのやり取りの時点では、少々不安を感じていたのですが、とにかく日本語での話す聞くがスムーズで、発音も綺麗、日本語で冗談も言うくらいでしたので、全く問題ないと思っていましたが、日本語の文法や単語、特に漢字が苦手で、読み書きで苦戦されているとの事でした。その為、企業へのご紹介時には、読み書きが苦手という事を伝えて選考して頂きました。その前提で面接に進んだ企業では、危なげなく内定を頂いておりました。

話す・聞くが苦手な方

日本で大学院も卒業され、日本在住歴が6年以上の方でした。メールでのやり取りもスムーズで、問題ないだろうと予測していました。実際にお話してみると、日常会話的な部分では問題ないのですが、技術的な説明をしてもらう時など詳細な話になると聞き取れない場面が多々ありました。また、最初は聞く方が大丈夫だろうと思っていましたが、こちらも詳細な話になると通じていないと感じる場面が幾つかあり、分からないと『はい』と言ってしまっている事も分かりました(日本人が英語で質問された時に、分からないのに『YES』と答えてしまうのと一緒かも)。そして、ここまでの転職活動を聞いてみると、面接で不合格が続き、理由は『日本語力不足』と言われたとの事でした。表面的には日本語力不足を感じない方ですが、話が深まるとそれを感じるという方で、それを見極める事も必要でした。結果的に、マッチングする企業が見つかり、無事に転職成功となりましたが、今後も日本語力の勉強、特に基礎的な事から復習が必要として、スクールへの申込等も手伝いました。

まとめ

外国籍の方が言語で苦労される事、その国での語学力のニーズに応える事が難しい事は常に起こりうる事象です。その中でも、この日本、そしてものづくり技術者での転職というハードルでは、特殊性もあります。是非、国籍に関係なく活躍できる環境を願っております。但し、現実的には『日本語力の選考基準』がありますので、資格取得による明確な基準も含めて、努力される事を推奨し、個別のご提案も続けていきます。